路地裏バーのからくり書庫(民事法)

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司法書士による過払金返還請求訴訟提起は弁護士法に抵触するのか?

富山地裁平成25年9月10日判決・判例時報2206号111頁)

 

〈事案の概要〉

 原告が被告に対し,約1080万円の過払い金返還請求及び取引履歴不開示により精神的苦痛を受けたとして50万円の慰謝料請求を求め訴訟を提起した。

 原告は,司法書士の乙山に過払い金返還請求を依頼しており(乙山の経営する事務所を,「丙川事務所」という。),訴状も乙山が作成して提出したものだった。乙山は,過払い金返還請求訴訟に関する依頼を受けた時,おおむね以下のような方針を採っていた。

 ⑴依頼者から訴状などの書面作成・提出の一切を任せてもらい,依頼者の印鑑を預かり,乙山自身の判断で書面を作成して印鑑を押し,裁判所に書面を提出する。

 ⑵裁判の期日には依頼者を出頭させ,依頼者にあらかじめ,訴状などの書面の陳述,和解の提案があれば拒否することなどごく限られた行為のみ行わせる。

 なお,訴訟に関する書面の送達先は依頼者の住所ではなく丙川事務所の住所を指定し,丙川事務所から裁判所に書面を提出していた。

 被告は,乙山の弁護士法違反により提起されたこの訴訟は,民事訴訟法54条1項本文の弁護士代理の原則に違反し無効であると主張した。

 

 

〈被告の主張〉

「乙山は,原告から,本件訴訟について,訴訟行為を策定する包括的な委任を受け,本件の期日には原告を出頭させるも何ら実質的な判断を行わせずに,自らが策定した訴訟行為を,原告の名において行わせたものであるところ,」かかる行為は「非弁護士が報酬を得る目的で訴訟事件に係る法律事務を取り扱うことを禁じた弁護士法七二条に違反するだけでなく,」「本件訴えの提起を含めいずれも民事訴訟法五四条一項本文所定のいわゆる弁護士代理の原則に違反するものであって無効である。」

 

〈原告の主張〉

 本件訴訟の訴訟行為はいずれも原告の名で行われており,書面はいずれも現行の指示に従い乙山が作成し原告がその内容を確認したうえで押印して提出している。

 

 

〈判旨〉訴え却下。

民事訴訟法五四条一項本文の趣旨は,「訴訟の技術性・専門性を重視し,訴訟の効率的運絵の為に訴訟代理人を弁護士の有資格者に限定するとともに,いわゆる事件屋などの介入を排除するという公益的目的を図ることにある。

 もっとも,紛争の当事者以外の第三者の訴訟関与の形態は訴訟代理に限られないところ,法律上の定めなく,実質的当事者である被担当者が訴訟担当者に訴訟追行権を授与し,訴訟担当者の名において訴訟追行をさせる,いわゆる任意的訴訟担当は,弁護士代理の原則を回避,潜脱するおそれがなく,合理的な必要性がある場合に限り認められるものと解されているほか,非弁護士で法律事務の取り扱いを業とする者を補佐人とすることも,弁護士代理の原則の趣旨に反して許されないものと解されており,民事訴訟法五四条一項本文により効力が否定されるべき訴訟行為は,非弁護士が当事者本人を代理して行ったものに限られず,実質的にこれと同視できるもの,すなわち,当事者が非弁護士に対して訴訟行為を策定する事務を包括的に委任し,その委任に基づき非弁護士が策定したものと認められる訴訟行為を含むものと解すべきである。」

司法書士法三条一項四号所定の書類作成事務の限界と弁護士法七二条により禁止される法律事務の範囲については,訴状答弁書又は準備書面等の作成は,他人から嘱託された趣旨内容の書類を作成する場合であれば,司法書士の業務範囲に含まれ,弁護士法七二条違反の問題を生ずることはないが,いかなる趣旨内容の書類を作成すべきかを判断することは,司法書士の固有の業務範囲には含まれないと解すべきであるから,これを専門的法律知識に基づいて判断し,その判断に基づいて書類を作成する場合には同条違反になる者と解されており,民事訴訟法五四条一項本文の適用範囲につき上記のとおり解釈することは,紛争の当事者からの委任を受けていかなる趣旨内容の訴訟行為を行うべきかを判断し,訴訟行為を策定する事務は弁護士の固有の業務範囲とされ,非弁護士がそのような事務を業として行うことが弁護士法七二条により禁止されていることと整合的である。」

「乙山は,過払金の返還を受けようとする依頼者は,概して,過払金の返還を受けることに高い関心を有するものの,その返還を受けるプロセスがどのようなものであるかについては関心が低い事などに着目し,書面の作成に伴う地震及び依頼者の事務負担を軽減することを目的として,貸金業者から過払金の返還を受けるために地方裁判所に訴えを提起する必要がある場合には,弁護士法七二条に違反することを承知しながら,依頼者との間の関係は内部的なものであり,第三者にその実態を知られるおそれはほとんどないものと考え,本件処理方針を採ってきており,これは,乙山が原告から依頼を受けた際も異ならなかったものと認められる。

そして,原告の乙山に対する本件処理方針に従った事務の委任は,本件に係る訴訟行為を策定する事務を包括的に委任するものであり,本件訴えの提起は,この委任に基づき乙山が策定した訴訟行為であると認められ」,民事訴訟法五四条一項本文に違反し,無効である。

 訴訟行為の無効の性質が「訴訟代理権の欠缺の場合と同様であるとすれば,同行本文違反の訴訟行為は当事者の追認があれば有効となる。」しかしながら,受任者が非弁護士であると知りながら委任した当事者について,そのような場合にまで追認により有効とすることを認めると,「公益的目的実現のために訴訟行為をあえて無効とする不利益を課した実質的意義が失われることになる」ため,訴訟行為の追認があっても有効とならないと解するのが相当である。