路地裏バーのからくり書庫(民事法)

民法,商法などの裁判例,判例を紹介していきます。

建物建築前には建物間隔の要望を受け入れたような態度をとりその後基礎工事が完了した段階で態度を翻した場合には,誠意を以て交渉しなかった,不誠実だとして慰謝料支払い義務が発生するか?

阪高裁平成10年1月30日判決・判例時報1651号89頁

 

〈事案の概要〉

 Xが,建物建築前に,隣地所有者であるYに対し境界線から最低40センチメートル間隔をあけて要請したところ,Yはいったんはその要望を受け入れたように装い,その後基礎工事が終わった段階で態度を翻してXの要請を無視した。Xは,これは欺瞞行為であり当該行為により精神的苦痛を被ったとしてYに対し慰謝料の支払いを求めている。

 第一審判決は,Xの請求を認容した。

 

 

〈判決〉Xの請求を一部認容(慰謝料200万円→50万円に減額)

「一般に人家の密集している地域において建物を建築しようとすると,これによって隣接土地所有者の有する種々の生活上の利益を継続して侵害することになる可能性があるのであるから,このような場合隣接土地所有者導師が快適に過ごすために相手方の生活利益を侵害しないように配慮すべき義務を負っているというべきである。更に進んで,健全な社会通念に照らして考えてみるに,右義務の一内容として,相隣者間においては,相隣関係における円満を保持するために相隣者間に紛争が生じた場合には互譲の精神に基づき社会共同生活一員として右紛争の円満な解決に向けて真摯に交渉すべきがあると解するのが相当である。

 しかしながら,隣接土地所有者と話し合いをしようとしても,従前の双方の生活史,交流状況,相手方の応答態度など諸般の事情が複雑に作用して,交渉開始のきっかけ,交渉内容,交渉の成否が左右されたり,影響を受けるものであって,いかなる場合にも無条件に交渉ないしこれに応ずべき法的義務があると解するとすると,建物を建築する計画を有する者の権利行使を不当に妨げ,その者に酷な結果を招くこともありうるから,例外的に,右交渉をすることを期へし得ない場合もあることを是認しなければならない。

 右見地に立って本件について考えてみるに,本件のように,隣接土地所有者の双方が災害に遭ってほぼ同時期に建物を再建築しようとしている場合であって,しかも,一方当事者が従前の建物の建築状況を前提にして,これを尊重した内容の建築計画を提示しているような状況の下では,従前の建物の建築状況が特に不合理でない限り,相隣関係における円満を保持するために右提示に対して真摯に耳を傾け,自らの建築計画と相手の建築計画を対比検討の上場合によっては互譲の精神に基づき自らの案を再度修正,検討するなど,誠実かつ柔軟に協議に応じることによって,隣接土地所有者の不安を除去し,相隣関係における円満を保持すべき義務があると解するのが相当である。」

 Yは,Xからの申し入れに対して協議を拒否すべき合理的理由もなく一貫してXの申し入れに対しては断固応じない旨の態度を示しており,これによりXは「隣接土地所有者として隣人との話し合いを重ねながら良好な居住環境を形成しようとする意図ないし一般的期待を裏切られたものであり,右の期待利益は生活の平穏に関する一種の人格的利益としてそれ自体不法行為上の保護を受け得る法的利益というべきものであって」,YはXに対し,右期待を裏切られたことによって蒙った精神的苦痛について賠償すべき義務があると解するのが相当である。