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路地裏バーのからくり書庫(民事法)

民法,商法などの裁判例,判例を紹介していきます。

売上伝票や請求書の名宛人欄には店名,しかし名宛人は本当は会社組織(いわゆる個人会社)だった場合,代金の請求先は会社か個人(社長)か?

大阪地方裁判所昭和45年4月27日判決・判例タイムズ252号274頁

 

〈事案の概要〉

 Xは酒類の卸,小売業を営む会社であったが,昭和38年10月ごろから洋酒喫茶「宝島」(以下,「宝島今里店」という。)に洋酒等を卸していた。その後,同店の店主から,母Yが経営する洋酒喫茶店「宝島」(以下,「宝島天下茶屋店」という。)にも卸してほしいと依頼され卸すようになった。取引開始の際には,実は会社組織であると知らされなかったため,原告発行の売上伝票の名宛人には,宝島今里店からの注文については「今里宝島」と,宝島天下茶屋店からの注文については「天下茶屋宝島」と記載していた。当初は遅滞なく売買代金は支払われていたが,次第に支払いを怠るようになったため,宝島天下茶屋店に対する売掛金の回収の為,XがY個人に対して訴訟を提起した。しかし実は,宝島天下茶屋店は,Yが代表取締役である株式会社宝島の支店であった。

 

 

〈判旨〉請求認容

「原告が本件取引の相手方としていた宝島天下茶屋店は,実は,被告が代表取締役をしている株式会社宝島の支店であって,被告個人の経営にかかるものではなく,本件取引における被告の行為は同店のための商行為の代理であることが明らかであるから,被告が右会社のためにすることを示さなくても,その行為は右会社に対して効力を生ずるものといわねばならない。」  次に,原告は宝島今里店や宝島天下茶屋店との取引にあたり,これらは株式会社宝島の支店であることを知らされなかったため,原告は,売上伝票や代金の請求書の名宛人欄には,単に『今里宝島』または『天下茶屋宝島』と記載したが,それについては右会社の代表者たる被告が何ら異議を申し述べなかった。また,「右各店の看板や原告の売上伝票に対する受領のサインには,単に『宝島』と記載されているだけで,右各店が会社組織であることを表示するものは何一つ記載されていなかったことが認められるだけでなく,」「右各店には双方併せて四,五人の従業員がいただけであり,」「原告が右各店と取引した売掛代金の支払は専ら被告によってなされていて,その実権は被告によって掌握されていたので,原告会社の代表者らは,右各店はいずれも被告の個人経営にかかるものであり,本件取引の相手方は被告個人であると信じていたことがそれぞれ認められる。」「かかる事実よりすれば,当時は,原告において,株式会社宝島の代表者たる被告が同会社のために商行為をなすことを知り,または知りうべかりし事情になかったものというべく,かかる事情のもとにおいては,本件取引の相手方が右会社であることを知らなかったことにつき原告に何ら咎むべき過失はなかったものといわねばならない。  以上の如く,原告において,被告が右会社のために商行為をなすことを知らず,また知らなかったことにつき過失がなかったときは,商法第五〇四条但書により,取引の相手方保護のために,原告と右会社の代表者たる被告個人との間にも,右会社に対すると同一の本件取引による法律関係を生ずるものというべく,原告は,その選択に従い,右会社との法律関係を否定して,被告との法律関係を主張することができるものと解するのが相当である。」