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路地裏バーのからくり書庫(民事法)

民法,商法などの裁判例,判例を紹介していきます。

子どもが親のクレジットカードを盗み出して使用した場合,親はカード利用代金の支払い義務を負うか?

クレジットカードの不正使用(子どもが親のカードを不正使用した場合)

京都地裁平成25年5月23日判決・判例時報2199号52頁

 

〈事案の概要〉

未成年のX1が父親X2の財布からクレジットカードを盗み出して,そのカードでキャバクラ(Y1~Y4はその経営者)に行き支払いをし,クレジットカード会社Y5はX2に対してカード利用代金の支払いを求めた。それに対し,X1及びX2は以下の通りの主張をして提訴した。

①(Y1~Y4に対して)X1及びX2と,Y1乃至Y4との間の接客契約は取消の対象或いは無効。

②(Y5に対して)X2はカード利用代金の支払い義務を負わない。

 

 

〈判旨〉一部認容

(X1及びX2と,Y1~Y4との間の接客契約は一部無効。X2のカード代金支払い義務は認める。カード不正使用による損害については,X1は賠償責任を負わない。

以下,表題のとおり,未成年者が親のクレジットカードを盗み出して使用した場合,親はカード利用代金の支払い義務を負うか?についてのみ掲載する。)

 

「第5 被告Y5の原告X1に対する請求の当否について

1 本件各契約(原告X2と加盟店被告らの契約)と立替払契約(原告X1と被告Y5の契約)は別個独立の契約であるから,本件各契約に無効取消し原因があったとしても,このことは,直ちに原告X1のカード利用代金債務を左右するわけではない。原告X1のカード利用代金債務の存否は,本件各契約の無効・取消しとは別個に検討しなければならない。

2 原告X1は,個別の立替払契約が消費者契約法に基づき取り消されたことを理由として,カード利用代金債務の消滅をいうが,カード会員でない原告X2が本件カードを利用する度に個別の立替払契約が成立する余地はなく,消費者契約法に基づいて取り消すべき個別の立替払契約というものは存在しないから,原告X1の上記主張は前提を欠き,失当である。

3 結局,原告X1のカード利用代金債務は,本件会員契約に基づき,本件規約の定めに従った形で発生するというしかないのであって,本件規約が何を定めているのか,その定めが適用される範囲がどこまでかという契約の解釈を通じて確定するしかない。具体的には,盗難カードの不正使用があった場合を規律する本件規約7条をどのように解釈し適用するかによって結論が定まるものと解されるから,以下,その点について検討する。

4 盗難カードの不正使用の場合,会員と信販会社との間には立替委託関係が存在しないから,本来なら,カード利用代金債務は発生しないはずである。

 本件規約7条は,カード利用代金債務が発生するかしないかという形で盗難カードの不正使用の場合の債権債務関係を定めているが,その実質は,盗難カード不正使用の場合の損害を信販会社と会員とでどう分担するのかを定めた規定と解される。言い替えると,いかなる場合に信販会社の損害が会員に転嫁されるかを,カード利用代金債務の有無という形で定めた規定と解される。

  ここでは,

  ①原則として,常に会員はカード利用代金債務を負い(2項)

  ②例外的に,速やかな信販会社への届け出により会員は免責され(3項本文)

  ③しかし,家族が窃盗犯人ならやはり会員は免責されない(同ただし書き),ということが定められている。

5 確かに,家族が窃盗犯人である場合にまで無条件で会員の免責を認めると,家族の不正使用を口実に不当にカード利用代金債務を免れることが可能となり,不道徳な行動を誘発する危険がある。本件規約7条3項ただし書きに一定の合理性があることは否定できない。

 しかしながら,もし,立替払の原因契約(加盟店と窃盗犯人の契約)が公序良俗に反する場合にも,常に信販会社がカード利用代金を会員に転嫁できるという解釈をとれば,信販会社は公序良俗違反の契約によって手数料収入を得ることになるし,信販会社が加盟店に立替金の返金を求めないため,加盟店も公序良俗違反の契約によって収益を獲得することになる。

 しかし,この結果は,本件のように,立替払の対象が,16歳の未成年者が風俗営業店において享楽的な雰囲気の中で飲酒遊興した結果として発生した暴利的な接客代金であるという事案においては,かなり容認しがたいものといわなければならない。

 民法90条は,わが国の公序良俗に反する契約に基づき利益をえてはならないことを定めているはずであるが,本件ような事案についてまで,本件規約7条を文字どおりに解釈適用すれば,民法90条の存在意義が著しく貶められるといわざるをえない。特に,立替払の対象が暴利行為に該当して無効となる場合にこのことが顕著である。

6 そもそも,信販会社には,カード不正使用の不利益からカード会員を保護するため,信義則上,不正使用の可能性がうかがわれる一定の場合,カードの使用者が本人かどうかを確認するための合理的な手段をとり,本人確認の状況が疑わしい場合にはカード決済を暫定的に見合わせる程度の義務は負うものというべきである。

 なお,上記にいう加盟店には,被告Y5にとっての各店のように業務提携先の加盟店である場合も含まれるといわなければならない。直接の加盟店と業務提携先加盟店とで上記義務の有無に違いが生じるとすべき根拠も見あたらないからである。

7 そして,信販会社の義務が十分に果たされずに不正使用が拡大し,しかも,窃盗犯人と加盟店との間の原因が公序良俗に反するという場合,裁判所としては,加盟店の公序良俗違反行為に対する寄与の度合い,信販会社による本人確認の状況等の諸事情を総合的に考慮し,不正使用による損害を会員に転嫁することが容認しがたいと考えられる場合は,本件契約7条ただし書きに基づく会員に対するカード利用代金請求が権利の濫用となる(あるいは信義則に反する)として民法1条2項ないし3項に基づく公権的解決を図ることができると解すべきである。

8 その観点からすれば,まず,本件各契約代金のうち民法90条に抵触しない番号1ないし5,11及び12並びに17ないし24(合計76万3170円)については,不正使用による損害を会員に転嫁することが容認し難いとまではいえないから,原告X1は,本件客7条3項ただし書きが適用される結果,その支払い義務を負うことになる。

 これに対し,番号6ないし9(Y1利用分)及び13ないし16(Y2利用分)については,前記第4に認定のとおり,Y1やY2が原告X2の思慮不足に乗じ,巧みに働きかけたり,不正使用に便乗して高額な料金を発生させたものであって,加盟店の公序良俗行為への寄与は相当に大きいものというべきである。一方,被告Y5は,12月25日の夜に一度だけY1に確認の電話を入れているが,その本人確認も,原告X2が銀行名を答えられなかったにもかかわらず,原告X1本人による使用を認めたものである。飲食店で換金目的でカードの不正使用の可能性がないとはいえ,12月25日の夜の決済額(立替申出額)は被告Y5が不正使用の可能性を抱く程度に多額であり,このような状況で銀行名を答えられなかったにもかかわらず決済を承認することは合理的とは言い難い。原因契約が公序良俗に反する上に,これらの事情をも考慮するならば,番号6ないし9及び13ないし16の合計476万5056円については,不正使用による損害を会員に転嫁することが容認し難いといわざるを得ず,本件規約7条3項ただし書きに基づくY5の請求は,権利の濫用ないし信義則に反するものとして許されないというべきである。」