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路地裏バーのからくり書庫(民事法)

民法,商法などの裁判例,判例を紹介していきます。

差出人名は会社,印鑑は個人名の場合の通知の有効性

差出人名は会社,印鑑は個人名の場合の通知の有効性

島原簡裁平成19年1月31日判決・判例タイムズ1242号219頁

 

〈事案の概要〉

原告が,訴外株式会社西田建設(以下「本件会社」という。)に対し社会保険料債権を有してたところ,本件会社の工事請負代金請求債権を差し押さえて差し押さえ通知書を第三債務者に送達したところ,第三債務者は上記請負代金請求債権全額を供託したが,今度は原告は本件会社が有する上記供託金還付請求権を差し押さえ,その通知を供託官に送達したことにより供託金還付請求権の取立権を取得したとしてその確認を求めて出訴したのに対し,本件会社の従業員であった被告らは,本件会社より,被告らの本件会社に対する給料債権についての弁済として上記請負代金請求債権を譲り受けたとして争い反訴を提起している。なお,本件通知には,本件請負契約書において使用されていた本件会社の代表者印は押捺されていなかった。

 

 

〈判旨〉請求認容

民法467条1項は,指名債権譲渡に際し,債権譲渡人が債務者に対し通知し,あるいは債務者が債権譲渡を承諾することを債務者その他の第三者に対する対抗要件としている。

 この立法趣旨は,債務者との関係では,通知あるいは承諾により,債務者が二重弁済の危険にさらされることを回避し,もって債務者を保護することにあることは明らかである。

 また,第三者との関係では,債権を譲り受けようとする第三者は,まず債務者に対し債権の存否あるいはその帰属を確かめ,債務者は,当該債権がすでに譲渡されていたとしても,譲渡の通知を受けないか又はその承諾をしていない限り,第三者に対し債権の帰属の変動のないことを表示するのが通常であり,第三者はかかる債務者の表示を信頼してその債権を譲り受けることがあるから,当該債権の債権譲渡の有無についての債務者の認識を通じ,債権の所在が第三者に表示されることを目的としたものである。(最判昭和49年3月7日民集28巻2号174頁)」

「債務者保護の制度としては,同法478条(債権の準占有者に対する弁済)が設けられているが,同条は債務者の善意無過失を要件としており,無過失であることについて,従来の判例において,単に弁済時点の事情のみならず預金システム全体の安全性具備の有無等といった様々な評価事実を総合した上で慎重な判断がなされていることにかんがみれば(最判として,昭和42年12月21日民集21巻10号2613頁,同53年5月1日裁集民124号1頁,平成5年7月19日裁時1103号1頁,同15年4月8日民集57巻4号337頁各参照),同条のみにより債務者を保護するのは不適当であり,同法467条1項による保護も併せて考慮すべきである。」

「すると,債権譲渡通知が有効であるというためには,債務者に対する関係では,債務者保護の観点から,債務者が当該債権譲渡通知が真正なものであると信じて弁済を行った場合に同法478条による保護を受けられること,換言すれば当該債権譲渡通知が真正なものであると信じたことについて債務者に過失がないと評価される程度の外観を具備していることが必要である。

 また,第三者の関係では,民法の定める債権譲渡制度は,債権の所在に関する債務者の認識を前提としていることから、債権譲渡における取引の安全を確保するために債権の所在に対する債務者の正確な認識が必要不可欠であり,これを実現するためには,債権譲渡通知において,譲渡債権の特定の他,債権者本人からの通知であることについて疑義が生じない記載がなされていることが必要である。

 そして,上記外観の具備を欠く債権譲渡通知については,上記立法趣旨に照らし,当該通知をもって債務者その他の第三者に対抗することができないものと解するのが相当である。」

「会社代表者が外部に対し書面をもって意思表示をする場合,社名,肩書及び指名のほか,代表者印(会社印)を押印するのが通例であるところ,これにより,個人としての登録が任意である個人と異なり,上記印章について商業登記を行う際に提出が義務付けられており,それに対応した印鑑証明の制度が設けられていること(商業登記法12条,20条)により,代表者印(会社印)の表示を通じ,当該文書が会社代表者により真正に作成されたか否かの判断が容易になり,ひいては取引の安全が確保されることとなる。」

「以上を踏まえて本件を検討するに,本件では,上記前提事実記載のとおり,本件債権譲渡において送付された本件通知において,会社代表者であることの記載はあるものの,代表者印(会社印)ではなく「A」名義の印章が押捺されていたに過ぎず,その記載からは,機関の立場としての押印であると直ちに認められるものではなかったものである。

 すると,本件通知の記載によったのでは,債権者である会社の機関たる代表者による通知か,機関ではない個人による通知か不明であること,会社代表者が外部に書面を以て意思表示等をする場合の一般的な形式(代表者印(会社印)の押捺)とは明らかに異なること,本件債権には譲渡禁止特約が付されており,契約上,当事者の一方的な通知による債権譲渡は本来予定されていなかったことに加え,債権譲受人が譲渡禁止特約について善意無重過失であるか否かにより債権譲渡の効力が左右される状況であったことを併せて考慮すると,債務者には慎重な対応が求められる状況であり,仮に債権譲渡の事実がないにもかかわらず債務者が本件通知をその記載のみから真正なものと信じ,債権の譲受人を詐称する者に対し弁済を行った場合,債務者に過失がないとの評価はできず,債務者は債権の準占有者に対する弁済としての保護を受けることができないことが明らかであるから,本件通知はこれが真正なものであると信じたことについて債務者に過失がないと評価される程度の外観を具備しているものとはいえない。

 また,第三者に対する関係では,本件通知の記載によれば債権者本人からの通知であることについて疑義が生じることにより,債権の所在が不明確となり,民法の予定する公示機能を果たすことができないことが明らかである。」