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路地裏バーのからくり書庫(民事法)

民法,商法などの裁判例,判例を紹介していきます。

催告の内容証明の受領拒絶と時効中断

催告の内容証明の受領拒絶と時効中断

東京地裁平成10年12月25日判決・判例タイムズ1067号206頁

 

〈事案の概要〉

 原告は,被告野嵜和興(以下,「被告和興」という。)との間で平成4年3月23日,弁済期を同年9月30日とする金銭消費貸借契約を締結し,被告野嵜恵(以下,「被告恵」という。)はその契約を連帯保証した。

しかし,履行されなかったので,原告は被告和興に対し,平成9年7月10日,平成10年1月21日の二度にわたり督促状を普通郵便で送付した。

さらに,原告は,同年1月14日,同28日及び同年2月2日の三回にわたり,配達記録付郵便で不動産管理信託決算報告書お届けの件と題する書面等を自宅あてに送付したが,いずれも保管期間経過の理由で返送された。

原告は,同年3月23日に,配達記録付郵便で債務承認書を被告和興の事務所(同被告は司法書士事務所を開所していた)に送付したが,同事務所の事務員はその受け取りを拒否し,その封筒表面に「受け取りを拒否します」と記載して被告和興の印鑑を押捺して原告に返送された。

原告は,平成10年3月26日に配達記録付郵便で債務履行を催告をする書面を同被告の事務所あてに送付し,右書面は翌27日に配達されたが,同事務所の事務員はその受け取りを拒絶した。原告は被告恵の自宅に対しても書面を送付しているが,保管期間経過の理由で返送された。(なお,被告和興は,経済的に破たんしていたことにより事務所には出勤できない状態となっており事務所自体は継続していたものの事務員には同被告からしか連絡を取れないようにし,また,平成九年三月ころ家族が家を出て別居してからは同被告自身もあまり自宅には帰らず,帰宅しても深夜になることが多い状態だった。)

 そこで,原告は,被告和興及び被告恵に対し本件金銭消費貸借契約の履行を求めて出訴した。同訴訟の中で被告らは時効援用の主張をしたため,原告は,平成10年3月27日に被告和興に書面は到達したと再抗弁をしている。

 

 

〈判旨〉請求認容

消滅時効の制度の趣旨は,法律関係安定のため,あるいは時の経過に伴う証拠の散逸等による立証の困難を救うために,権利の不行使という事実状態と一定の期間の継続とを要件として権利を消滅させるものであり,また,権利のうえに眠る者は保護に値しないとするところにあるとされているところ,催告に暫定的な時効中断の効果を認めた理由は,裁判外あるにせよ催告という権利者としての権利主張につながる行為を開始することにより,もはや権利のうえに眠る者とはいえなくなるからと解される。そして,催告は,債務者に対して履行を請求する債権者の意思の通知であるから,これが債務者に到達して初めてその効力を生ずるというべきである。

 そこで,本件についてみるに,右1認定事実によれば,原告の普通郵便による督促状は被告らに到達したことを確認できないし,配達記録付き(あるいは配達証明付き)の催告書ないし債務承認書は,いずれも被告らの不在の為に受領されずに返送されるか、又は被告和興の事務所の事務員が受領を拒絶して返送されているのであるから,右各書面が被告らに到達したことを確定的に認定することは困難というべきである。

 しかしながら,本件においては,①被告和興は時折自宅に帰っていたのであるから,右(一)認定の普通郵便による督促状を受領していた可能性が高い上,②被告らが不在のため保管期間経過として返送された郵便については,郵便局員が不在配達通知書を被告らの住所に差し置くのであるから,被告らはその郵便の存在を知ることができるとともに,容易にこれを受領することが可能となっていたものであり,③更に被告和興の事務所宛に送達された内容証明郵便については,二回とも同事務所の事務員により受領拒絶の措置が採られているが,右措置はあらかじめ被告和興からはそのような指示がなければ考えにくいことであるし,また,少なくとも被告和興からは定期的に同事務所への連絡がなされていたはずであるから,その際にも原告からの内容証明郵便が配達されたことが被告和興に伝えられていたと考えられることからみると,被告和興は原告からの本件貸金債務の請求関係書類が同被告に送付されていたことを了知していた可能性が高いというべきである(更にいえば,被告和興は普通郵便による督促状を閲読していたゆえに,その後の原告からの郵便物の受領を拒否する措置をとった可能性も考えられるところである。)。

 仮にその様に認められないとしても,前記のような時効制度の趣旨を前提として考えると,原告は,前後四回にわたって被告らに対し,その自宅あるいは事務所宛に催告の趣旨を記載した内容証明郵便ないし普通郵便を送付しており,債権者としてなし得る限りのことをしているのであって,権利の上に眠る者とは到底いえないし,他方,右催告が被告らに到達しなかった原因はもっぱら,債権者からの追及を免れるために送付書類の受領を拒否する態度に出た被告側にあるのであるから,右送付に催告の効果を認めなければ,結局債権者には時効中断のためにとりうる手段がないことになり,著しく不当な結果となる。

 そうすると,いずれにしても,本件の催告は,被告和興の事務所に郵便局員内容証明郵便を配達し,同事務所の事務員がその受領を拒絶した平成一〇年三月二七日をもって被告和興に到達したものとみなし,催告の効果を認めるのが,時効制度の趣旨及び公平の理念に照らし,相当であるというべきである。」